古来より、我々日本人は自然と共に生きてきました。醤油、味噌、納豆、そして酢。
これら発酵食品は先人が「菌」という自然の力を借りて創造し、受け継がれてきた自然食です。
しかし、戦後の大量生産・大量消費の時代を背景に非効率的な伝統醸造法は衰退し、かわりに短時間で機械的に量産できる「速醸法」が定着しました。安価に製造できるかわりにツンと鼻に刺さるような酸味で、旨味成分はあまりありません。現在スーパーなどに流通しているお酢のほとんどはこの「速醸酢」と呼ばれるものです。その圧倒的なローコストと生産性の高さから市場を席捲した「速醸酢」は、私たち現代人に「酢は酸っぱいだけのもの」と思わせるようになりました。
九州酢造は古来より脈々と受け継がれてきた古式醸造法を大切にし、先人が守り育んできた「栄養豊富で美味しいお酢づくり」を守っています。
手間と時間を惜しまず、本物と思えるものだけをこれからも造り続けていきます。
私たちのお酢を通して、「お酢本来の旨さ」を感じて頂ければ幸いです。
「醸造酢」には大きく分けて2つの製法があります。どちらの製法も穀物や果実等を酢酸発酵させたものですが、そのプロセスが全く異なります。1つは「速醸法(連続発酵法)」と呼ばれる製法で、現在流通している醸造酢のほとんどがこの製法で造られたものです。もう1つは「静置発酵法(せいちはっこうほう)」で、所謂天然醸造と呼ばれる製法です。樽や壺を用いた昔ながらの製法であり、速醸法が普及する以前はほとんどがこの製法でした。
戦後、西洋から導入された製法です。ステンレス製の大型タンクに原料を仕込みます。仕込み液の深部に酸素を強制的に送り込み、細かい泡をつくります。泡を発生させ、表面積が増えることで発酵が早く進みます。短時間(数時間から24時間)でお酢を製造可能なことから「機械速醸法」や「表面発酵法」ともいいます。
非常に短時間で製造できるためローコストで大量生産が可能です。ただし、滋養成分に乏しく、ツンと刺すような酸味で風味のない淡泊な味の酢になります。
現在市場に流通している醸造酢のほとんどがこの製法だと言われています。
日本古来の製法であり、九州酢造が創業以来貫く製法です。(柿酢を含むすべての醸造酢)
空気に触れる上部から少しずつ発酵が始まります。発酵して比重が重くなった酢は、樽の下部に沈むことで自然の対流が生まれ、樽の中を無理なく循環していきます。
また、表面に自然の酢酸膜ができるため、液体内に生成された成分やコクが長期間閉じ込められ、お酢そのものに旨味や栄養成分が醸しだされ、かつ、まろやかでツンとしない味わいになります。
自然に任せて発酵するので、「お酢」と呼べる状態になるまでに3か月から4か月もの時間がかかります。
製造に手間と長い時間がかかるため、コストが高く大量生産できません。
九州酢造では「静置発酵」で醸造したお酢を、さらに樽の中で長期間熟成しています。
熟成期間が長いほど、原料由来のアミノ酸や有機酸類が醸しだされ、栄養豊富でまろやかなお酢になるからです。
その反面、熟成が長くなればその分、特有のクセも出てきます。例えば、九州酢造の柿酢は1年以上の熟成期間を設けていますが、半年では深みやまろみが足りず、逆に3年などになると栄養成分と深みは出ますがクセが強くなりすぎ、「美味しいお酢」とは言い難くなります。
九州酢造は「栄養豊富」かつ「美味しい」お酢造りの両立ため、原料によって最適な熟成期間を設けています。
圧倒的に早く・大量に・安く製造できる「速醸酢」は多くの消費者ニーズを掴み、瞬く間に市場を席捲し、現代においてはお酢のスタンダードとなりました。
造る側にとっても、そのメリットは大きく、仕込みから商品になるまでに多くの手間と時間、コスト、そして職人の技術を要する「静置発酵法」は、商売の観点からはもはやデメリットの方が多いのかもしれません。
しかし、「静置発酵法」で造られた「お酢の本当の旨さ」は、日本が誇るべき発酵文化と共に後世に遺すべきものであり、その苦労に代えられるものではないと信じています。